明るく鮮明な反射型ディスプレイ

 

反射型液晶ディスプレイは既存の液晶ディスプレイと異なり、バックライトなどの内蔵光源を用いず、周囲の照明光(環境光)で表示するため、飛躍的な省電力化を可能にします。また、周囲の明るさに応じて輝度が調整されるため、ぎらつきがなく長時間でも疲労の少ない自然な表示が可能となります。電子の紙と言えるものです。

この場合、直射日光が当たるような場所でも、視認性が高い表示が得られます。そのため、中大型の反射型カラーディスプレイは、フルカラー動画も表示できるデジタルサイネージ(電子看板、電子掲示板など)として応用できるため、熱い視線が注がれています。さらにフレキシブル化技術も加われば、鮮明なカラー動画を表示できる電子ポスターが出現します。省電力性が得られるだけでなく、曲面の構造物も自由に使用できて設置場所の制限がなくなるため、反射型ディスプレイの用途が飛躍的に拡大します。

 

湾曲ディスプレイの絵

フレキシブル反射型ディスプレイの応用イメージ

 

 

●フレキシブルな反射型カラーディスプレイ

 

高臨場感が得られるスーパーハイビジョン放送や、目を引くデジタルサイネージ(電子看板)などの次世代映像メディアを進展させるには、大画面であっても省電力表示を可能とするデバイス技術が必要になります。ここでは、屋外でも視認性が高く、省電力な反射型フレキシブルディスプレイを実現するため、高い利用効率の光拡散フィルム、偏光板、プラスチック基板、光学補償フィルムを先駆的に開発しています。さらに、カラーフィルターを最適設計することにより、反射率および色域の向上に取り組んでいます。

 

試作した反射型フルカラー液晶ディスプレイ

 

 

●反射型ディスプレイ用の高速応答化

 

反射型ディスプレイでは、バックライトを用いず周囲光を用いて省電力な表示を可能にするため、入射光を往復させて変調します。そのため、広い視野角、高コントラスト比、高速応答性を得るためには、透過型とは異なる独特な液晶配向の動作方式(液晶モード)が必要になります。そこで、電極構造により微細な液晶配向を制御することにより、諸特性を改善する取り組みを進めています。

放送文化基金技術開発助成(2016)]

 

電極分割画素の面内輝度分布(過渡応答)

 

 

●反射型ディスプレイにおける液晶のプレチルト制御

 

反射型液晶ディスプレイの電圧印加応答を高速にするためには、電圧トルクにより分子配向変化が生じやすいように、基板上の液晶分子を傾斜させる必要があります(プレチルト制御)。ここでは、基板に塗布したモノマー膜に紫外線のパターン露光を行うことで、画素ごとに微細な凹凸構造を形成してチルト角を付加する試みを進めています。

 

紫外線パターン露光によるモノマー塗布膜の

表面構造の加工例(凸形成)

 

 

● 高反射率・高色域の反射型ディスプレイ

 

環境光を照明として用いる反射型液晶ディスプレイは、バックライトが不要なため、消費電力が極めて少なく、フレキシブル用途を含めモバイルディスプレイで注目されています。ここでは、可視光の透過率が一定な無彩色偏光板と、配光分布を精密に制御できる光拡散フィルムを開発することで、新構造デバイスを提案しています。既に高い反射率で高品位な紙のような白色表示や黒色表示を実現しており、将来は色域の広いカラー動画表示への応用も期待されます。

映像情報メディア学会技術振興賞進歩開発賞(2015)]

映像情報メディア学会英文論文誌 招待論文(2016)]

[電気科学技術奨励会電気科学技術奨励賞 (2019)]

 

反射型ディスプレイ写真

開発したモノクロの反射型液晶パネル(左)

 

 

● 配光制御が可能な新構造の光拡散フィルム

 

フレキシブル用途も含め、透過型や反射型の液晶ディスプレイを高輝度化/省電力化するため、特殊な高分子多層構造の光拡散フィルムを開発しています。本フィルムでは屈折率の異なる2種の高分子の交互積層構造により、光が一定の角度内に均一拡散されます。表示光の配光分布を的確に制御することで、液晶ディスプレイ内に留まる光を抑制するとともに、ぎらつきのない自然な表示を可能とします。多層構造の自己組織化や光回折効果を解明することで、さらなる高機能化を追求しています。

小笠原科学技術振興財団助成(2015)]

電気学会電子・情報・システム部門 技術委員会奨励賞(2015)]

[映像情報メディア学会情報ディスプレイ研究会学生奨励賞(2016)]

 

 

多層構造を有する光拡散フィルムの断面の顕微鏡写真

 

● 吸収型偏光板の無彩色化

 

 液晶ディスプレイは偏光制御を動作原理にしているため、光学的なパフォーマンスや画質を高める上で偏光板の性能は重要です。そこで、反射型ディスプレイのコントラストや色再現範囲を向上させるため、光/熱耐久性に富む染料系色素を用いた吸収型偏光板の開発と評価を進めています。二色性染料の設計と延伸工程の改良により、波長依存性と偏光度を改善することで、無彩色の黒と白の表示を可能としました。

[国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2014)]

 

HP用無彩色偏光板写真

偏光板の改良(左:従来品、右:開発品)

 

● 金属箔基板を用いたフレキシブル反射型デバイス

 

フレキシブルで高精細な反射型液晶ディスプレイは、様々な生活空間への応用が期待されます。そのようなデバイスでは、マトリックス駆動用薄膜トランジスタの形成や液晶配向処理のために、高温の製造工程を柔軟基板に施す必要があります。そこで、耐熱性と表面平坦性に優れた金属箔基板の導入によりその克服を試みています。

 

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フレキシブル反射型ディスプレイ用の金属箔基板