エレクトロニクスの可能性を拡げる溶液プロセス

 

フレキシブルエレクロニクスは、今後の情報化社会のライフスタイルを変える可能性があります。ソフトマターを活用したフレキシブルディスプレイや適応光学デバイスを作製する上で、既存の作製技術が適用困難であることが多くあります。例えば、フレキシブル液晶を作製するためには、柔軟で加熱に弱いプラスチック基板に適した工程技術が必要となり、従来の真空成膜プロセスから、溶液プロセスへの転換が望ましいと考えられています。

実際のデバイス製造では、低温処理のみならず、材料パターンの高精度化、大面積化、時間短縮、省エネ・省資源化、低環境負荷、低コスト化なども求められます。そのような観点から、低温で大画面化が可能な印刷・塗布法(プリンタブルエレクトニクス)、加工精度が高い構造転写法などが注目されています。さらには、基板の搬送や取り扱いも、これまでの枚葉方式でなく、ロールに巻き取りながら表面加工を行うロールツーロール法が次世代作製技術として期待されています。

 

 

ナノインプリント法に基づくロールツーロール工程

 

 

さらに、フレキシブル・プリンタブルエレクトロニクスをベースとして、ディスプレイ・センサー・発電デバイス・論理回路などの半導体デバイスを実現するためには、有機半導体を低温処理で大面積化が可能な印刷・塗布工程で形成するだけでなく、結晶性を高めて特性を高める必要があります。

ここでは、上記の先進的なプロセス技術の実現に向けて、材料加工とデバイス化の基盤技術を開拓しています。

 

 

  液晶配向制御のための基板表面構造技術

 

プラスチック基板を用いて液晶デバイスを構成する場合、液晶を配向させるためポリイミド配向膜の高温焼成が問題になります(基板を歪む)。ここでは、液晶配向を制御するため、転写法・印刷法・ナノインプリント法などにより、基板上に様々な微細構造を低温形成する試みを進めています。

 

転写後 溝構造

液晶配向を制御する微細な溝構造

(構造転写法による作製例)

 

 

  微細な凹凸構造により配向を制御した液晶デバイス

 

基板表面の凹凸溝構造により分子配向を制御した液晶デバイスの電気光学特性と配向シミュレーションを検討しています。液晶の分子は、曲がり配向を避けて弾性エネルギーの増加を減らすため、溝構造に沿って配向するようになります。転写法による配向溝と壁スペーサを形成することで、インプレーンスイッチング液晶デバイスの試作を進めています。

IEEE Sendai Section Student Awards, The Encouragement Prize (2017)]

 

基板上の溝構造で均一に水平配向した液晶の

偏光顕微鏡観察

 

 

  液晶溶媒による高移動度有機半導体の単結晶育成

 

フレキシブルディスプレイ内の液晶を駆動するためには、柔らかくて高速な薄膜トランジスタが必要になります。そこで、柔軟な有機半導体を高移動度化するため、液晶溶媒を用いて有機半導体単結晶成長の結晶方位を制御する試みを進めています。この研究は、分子配列の異なる液晶と結晶の境界分野を開拓して、プリンタブルエレクトロニクスの高集積化・立体構造化の道を開く取り組みと言えます。ここでは、ラビング配向膜を用いた液晶溶液セル内で有機半導体溶液を冷却することで、単結晶板を形成できることを確認しました。

科学研究助成費 基盤研究B (2015-2017)]

[国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2014)]

 

単結晶

液晶溶液セル内で育成した有機半導体

 

 

  光配向膜による有機半導体単結晶膜の形成

 

有機半導体結晶の移動度向上と動作のばらつき解消には、分子単位の構造変化により液晶配向制御が可能な光配向膜が有用と思われます。そこで、液晶溶媒と光配向膜による有機半導体の単結晶成長を観察することで、配向した液晶や高分子が単結晶の核発生・成長に及ぼす影響を調べています。さらに、光配向膜に液晶溶液を塗布すると、平坦な単結晶板(自己組織化膜)が形成されることを明らかにしました。

         [電気学会電子・情報・システム部門技術委員会奨励賞 (2017)]

 

光配向膜上に塗布形成した単結晶薄板(左側)の

プロファイル

(共焦点レーザー顕微鏡による断面観察)

 

 

  溶媒中で析出する有機半導体の分子観察

 

溶媒中から基板表面に析出する有機半導体単結晶の構造と形成機構については、分子構造が複雑で多様なこともあり、十分に解明が進んでいないのが現状です。そこで、基板表面に形成される有機半導体単結晶の結晶表面構造を原子間力顕微鏡(AFM)により明らかにしていきます。このような観察は、基板表面など外部因子による単結晶の析出制御にも役立ちます。

 

有機半導体結晶表面の分子ステップの観察例

 

 

  有機半導体単結晶のX線構造解析

 

プリンタブル・フレキシブルデバイスに有用な有機半導体の分子性結晶の分子配列を明らかにするため、X線の回折測定を行います。液晶溶媒中で成長した単結晶は、多結晶に比べて高次の回折ピークまで明瞭に現れます。塗布をはじめ様々な工法で形成される立体的結晶構造やその歪みが解明されれば、電子特性の改善に役立ちます。

 

液晶溶媒中で形成した有機半導体結晶の

X線回折パターン

 

 

  有機色素の結晶化による偏光機能の向上

 

フレキシブル液晶ディスプレイでは、偏光度の高くて薄い偏光フィルムが必要となります。そこで、溶媒を用いた塗布工程で有機色素を結晶化させて結晶方位の配向秩序度を高める試みを進めています。ここでは、色素結晶構造の溶媒依存性や偏光吸収特性を明らかにしていきます。

科学研究助成費 若手研究B (2017-2018)]

 

  ポリマー分散技術による液晶の機能開拓

 

液晶ディスプレイの画質改善、フレキシブル液晶・スマートウインドウの開発では、液晶層に高分子を形成する技術(光重合相分離法)が注目されています。基板表面の2次元配向膜では、液晶配向制御の自由度に限界がある一方、3次元の微小高分子構造を構築すれば多様な液晶配向や電気光学効果が得られます。さらに、液晶という液体の機械的不安定性を固体の高分子で補うことができます。そのため、高分子分散技術は液晶の可能性を開拓するキーテクノロジーと言えます。ここでは、塗布工程と紫外線露光から得られる様々な液晶・高分子複合膜の光学機能を探索しています。