視覚疲労のない立体表示を実現する電子ホログラフィ

 

臨場感や質感が得られる表示技術として、立体表示方式は重要です。両眼視差に基づく既存の2眼式立体表示では、眼球の輻輳位置と焦点調節の不整合などにより違和感・疲労・映像酔いが生じることが多く、視覚的な疲労がなく自然な立体表示が得られる次世代立体技術が求められています。そのような目に優しい自然な立体表示を実現できれば、5Gなどの移動体通信、高臨場感の次世代テレビ放送、医療支援、工業製品設計、車載用ヘッドアップディスプレイ、アミューズメント・エンターテインメントなど、多くの情報サービス分野で大きなインパクトになると期待されています。

高度に発達した液晶ディスプレイ技術は、フレキシブルディスプレイのみならず、次世代立体表示にも応用が可能です。近年、液晶ディスプレイの高解像度化は著しく進展しており、プロジェクタ用の反射型デバイスでは3μmピッチ程度まで開発されています。そのような高解像度液晶デバイスでは、光回折を利用した立体像(ホログラフィ)を動画で表示できます。さらに1μmピッチまで高解像度化が進展すると、デスクトップで立体像を両眼で見ることができ、自然で疲労のない立体表示が実現されます。この空間像再生方式の電子ホログラフィは、究極の立体表示として期待されています。本研究により、将来の表示分野の基盤技術を積極的に提案していきます。

 

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電子ホログラフィを用いたデスクトップ型の

立体ディスプレイ(使用イメージ)

 

 

  超高解像度化の進展

 

現在、液晶ディスプレイの高解像度化が進められています。しかし、画素サイズが波長オーダー(〜1μm)になると透過光が回折して球面波になり、直進せず拡がってしまいます。その結果、光利用効率が悪くなり輝度が下がるとともに、干渉効果により光の放射角分布が不均一なります(有限要素法に基づく光波の数値シミュレーション)。波長オーダーの超高解像度液晶ディスプレイは、透過光の位相変調(もしくは強度変調)を行うことで、さらに付加価値の高いホログラフィ方式の立体ディスプレイに進化していきます。

画素サイズが微小化した場合のビーム光の拡がり

(光波動シミュレーション)

 

  ホログラフィ再生のシミュレーション

 

表示したい立体像からの光の逆伝搬で干渉縞の位相分布を求めて(角スペクトル法に基づき様々な方向の平面波展開で近似)、その干渉縞を位相変調デバイスで表示すれば、立体像を再現できます。ここでは、高精細液晶デバイスに干渉縞を書き込んだ場合の再生像の数値シミュレーション法を開発しています。

[映像情報メディア学会 映像情報メディア未来賞フロンティア賞 (2017)]

[映像情報メディア学会誌 招待論文 (2018)]

 

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数値計算による再生像

 

  ホログラフィの再生画像の画質評価

 

電子ホログラフィ立体表示の実用化には、既存の2次元ディスプレイで行われるような定量的画質評価が不可欠ですが、これまでほとんど行われてきませんでした。そこで、再生像シミュレーションや高解像度液晶デバイスを用いた評価実験により、デバイス構造や液晶配向乱れにより生じる回折ノイズが、再生像の解像度、コントラスト比、信号/ノイズ比、面内均一性など画質に及ぼす影響を検討しています。

[レーザー学会 優秀論文発表賞 (2020)]

 

  シリコン基板駆動反射型液晶デバイスによるホログラフィ表示実験

 

目に疲労がなく理想的な立体動画表示を可能とする電子ホログラフィを実現するため、高精細な反射型液晶デバイスにレーザー光を入射して、立体像を再生する取り組みを進めています。ここでは特に、回折効率(光利用効率)に優れた立体像を得るため、2π位相変調デバイスの液晶作製技術に関する研究に取り組んでいます。

 

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実験で得られた再生像

 

  液晶画素の微細化と電界シールド壁の導入

 

電子ホログラフィを実現するため、高解像度液晶デバイスの開拓を先駆的に行っています。デスクトップ環境で有効視野(視域角30度)を得るためには、1μm程度に画素を微小化しても光波面制御に必要な位相変調(2π)が確保できる画素構造を構築する必要があります。そこで、画素間の漏れ電界を防ぐ誘電体シールド壁を提案するとともに、それらが液晶配向挙動に及ぼす影響の検討を進めています。

[東北大学電気通信研究所共同研究プロジェクト (2013-2016)]

[国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2015)]

 

 

シミュレーション結果

誘電体シールド壁を設けた微小画素の

内部電界と液晶配向分布(計算例)

 

 

  微小画素駆動を可能する高分子壁の試作

 

超高解像度液晶デバイスの微小画素を実現するためには、隣接画素の電界漏洩や液晶材料の弾性を遮断する微細な高分子隔壁を作製する必要があります。本研究室では、高精度の型押し製法(光ナノインプリント法)を用いた微細かつ高アスペクトの壁形成に関する研究を推進するとともに、最適な壁構造の設計を進めています。 

[電気学会電子・情報・システム部門研究会奨励賞(2019]

[映像情報メディア学会情報ディスプレイ研究会学生奨励賞(2019]

 

高分子隔壁の作製協力:大日本印刷()

ストライプ状高分子隔壁の試作例

(壁幅約200nm1umピッチ)

 

 

  微小画素内の液晶配向制御

 

隔壁内では壁表面の影響で液晶配向が乱れやすくなります。そこで、画素内に微小な間仕切りを挿入して液晶領域を異方性化することで、画素内の液晶配列を長軸方向に制御できました。液晶の均一な初期配列が実現されたことで、超高解像度の画素駆動が可能になります。

[国際会議SID Distinguished Paper Award (2019)]

       [東北大学電気通信研究所RIEC AWARD東北大学学生賞 (2019)]

 

直交格子状隔壁と均一化された液晶配向

1μmピッチ画素)

 

隔壁と間仕切りのナノインプリント作製:大日本印刷()