研究のアプローチと特徴

 

社会に役立つ研究分野を発展させるためには、以下に示すような要素・過程が必要になると考えています。最初に、研究者のアイデアや興味から生まれた発想が、これまでに構築された学問体系を土壌や栄養として、基礎研究として芽吹いていきます。さらに、社会的要請により応用研究の幹が派生し、これにより研究開発の果実として、社会に役立つ製品やサービスが出現します。また、充実した研究活動を通して優れた人材も養成され、人材をベースに新分野が芽吹いていきます。研究分野の成長と拡大には、このようなサイクルがうまく働くかにかかっています。

研究分野の発展モデルに関する考察

 

さらに、研究の活性化には、社会的な理解と支援が欠かせません。社会的な要請や期待にマッチングすれば、より大きな研究分類(森林)が形成されます。森林となれば植生も豊かになり、生育環境の安定化により卓越したレベルの技術(巨木)が育ったり、もしくは切磋琢磨・生存競争により強力な技術として進化して、大化けしたりすることもあります。現時点で社会的要請がなくても、研究者の先見性に基づく先導的提案を、社会が後から追いかけてくることも少なくありません。科学技術の政策推進においては、そうした研究分野と社会の相互作用とダイナミズムを的確に理解しておく必要があります。

研究の課題設定とその進め方は、おおよそ2つに分類されます。基礎と応用の研究フローは、それぞれボトムアップ/トップダウンに基づくことが多いようです。両者のアプローチの方向は180度異なり、それぞれの得手・不得手を補完する関係にあります。社会に役立つまでの時間スケールが違いますが、双方のアプローチは科学技術を永続的に発展させていく上で不可欠と言えます。国の研究開発政策で言えば、ボトムアップおよびトップダウンの研究振興は、それぞれ日本学術振興会(JSPS)および科学技術振興機構(JST)が、主に担う仕組みになっています。

 

秋の根っこ

ケヤキ (青葉山キャンパス)

研究では、しっかりした根っこ(専門性)が不可欠

 

    1.ボトムアップ型の基礎研究

基礎研究は、何もないところに新たなにモノ・コトを出現させるため、言わば「ゼロから有を生み出す」アプローチです。基礎研究のボトムアップ型スタイルは、現象の発見・原理の解明など、特に個人の興味・発想に端を発するものが多いようです。この場合、得られた知識を基礎から積み上げて体系化し、その過程で派生する研究成果(スピンオフ)も数多く得られます。このスタイルを川の流れに例えると、川上そして源流、ひいては木の葉から滴り落ちる最初の水滴を探して遡上すようなものです。もし源流が無ければ、自らが源になります。樹木に例えると、幹や根を手繰って掘り進めるアプローチです。下流では上流よりも川幅が拡がるように、応用への波及効果は大きくなります。大きな原理・原則が見つかれば、カンブリア期の生物進化の大爆発のように、短期間に多様な方向の派生技術が生まれることも少なくありません。

基礎研究では、未踏の研究分野を好んで突き進むため、何よりもフロンティアスピリットが求められます。その課題は、これまで誰も試みていない独創的なものが多く、未知の大陸を求めて大海に乗り出すようなものです。そのため成功すると、時として将来の社会的枠組みを変えるような大きなインパクトをもたらします。基礎的な内容のため実用に移行できる割合は下がりますが、長期スパンの基礎研究がもたらすイノベーションの破壊力は、研究者にとってはとても魅力的です。そう、ドカーンと一発逆転を狙えます。応用技術が成熟して進展が望めなくなった時こそ、それを打破して新分野の大海原や大陸に導いてくれるのが基礎研究です。半導体、トランジスタ、コンピュータの発明などが良い例で、社会のあり方を変える新しい概念を創出して、その後の科学技術の発展に計り知れないインパクトをもたらしました。成功すれば科学・産業の基盤になり、大きな仕事として位置づけられます。ハイリスク・ハイリターンの典型です。

 

    2. トップダウン型の応用研究

応用研究は、時代もしくは社会の要請や、所属組織が抱える役割・責任にタイムリーに応えることを趣旨とします。言わば、基礎研究などで得られた「有」の可能性を拡大して極める研究です。この場合、もう一つの研究スタイルのトップダウン型が役立ちます。この場合、明確な目標を定めて、要素の選択・組合せ・性能向上など絶妙な技術の摺り合わせにより、トータルで高いパフォーマンスを実現します。目標達成のために使える技術を総動員しながら、バイプロダクトなど途中段階のマイルストーンも定めて、技術レベルを着実に進展させます。樹木に例えると、基礎研究とは反対に根・幹(基盤技術)から枝葉を生やしながら、花を咲かせたり果実を実らせたりするアプローチです。

その典型は企業の応用研究で、製品の開発はもとより、産業・サービスの創出が目的になります。特に応用研究は、研究成果を実用化するためには欠かせないプロセスです。応用研究では研究の出口が実用的で見えやすく、モチベーションやインセンティブを確保しやすい特徴があり、比較的短いスパンで成果が得られます。目標性能の達成はもとより量産化・低コスト化など、実用の壁を越えるのはたやすいことではありませんが、研究者にとっては内外に目的を説明しやすく、与しやすい研究活動になります。

応用もしくは実用化研究は、役立つ新技術を社会に届ける役割を負っているため、技術成熟のタイミングと社会的要請がうまくマッチングすると、技術と用途の相乗効果が生まれて、時代を動かす大きなドライビングフォースになります。無線通信・センサー・ディスプレイ分野の構築技術を結集したスマートフォンの開発が良い例で、大容量高速通信を通して、人々の想いを結びつける重要な社会的使命を担うようになっています。

 

基礎研究と応用研究の連携

 

このような基礎/応用研究を遂行するためには、高度な専門性だけでなく、周辺分野の知識も必要です。基礎研究を地中の宝探し(穴掘り)に例えれば、どこにあるか分からない宝物を見つけるためには、穴(専門性)を深くして探す必要があります。その場合、穴の幅(視野)を拡げなければ、不安定になり壁が崩れていまいます。穴の幅が拡大すれば隣の穴と連絡することもあり、ますます大きな穴となります。そうなれば、埋蔵された様々な宝物(新発見など)に遭遇するチャンスが増えます。その一報、目標が明確な応用研究を、建築や石垣作りに例えると、裾野となる技術分野を拡げられれば、安定して崩れにくい高い構造物を容易に構築できます。そうなれば、開発目標の達成に向けて、より高い到達点が期待できます。隣接分野を融合できれば、さらに高い目標を見込むことも可能になります。このように基礎研究の深化と応用研究の高度化には、周辺分野との連携が役立ちます。一般に、工学分野の学問・技術の発展には、分化・専門化による深化と、統合による俯瞰プロセスのフェーズが欠かせません。

本研究室では、相補的なメリット・デメリットを有する基礎および応用研究を個別の研究テーマごとに位置づけて、広い視野から相互に刺激しあうことで、新しいアプローチや切り口を探索していきます。

 

分野の拡がりに依存する基礎研究と応用研究