研究活動の意義

   

科学は、調べる行為や、そこから得られる知識を意味します。そのため、未知もしくは複雑で未解明のものごとから、科学が生まれます。そして、新しい知識を見いだす行為が研究です。研究は人類の可能性を切り開くため、これまで分からなったことを解明する、あるいはできなかったことを可能するための調査活動です。例えるなら、知識のない暗い場所を見つけて突き進み、人に役立つよう知識の明かりを灯していくようなものです。従って、研究で人類未踏の問題をクリアできれば、その価値が高いと言えます。研究によって得られた真理は人類共通の財産となり得るため、真理の追究は人類にとって普遍的な課題と言えます。そのため研究は、知識の発見と体系化を通して人類の文化・文明の進歩に資することを主眼としています。

それでは、大学において研究活動がどうして必要なのか、一言では回答が難しい問いではありますが、本研究室では以下のように整理して考えています。大学は、知識生産活動の根幹を担うべく、先人の知恵である学問を究める研究者(教員)や学生が、学問の自由に裏打ちされた自由な発想と多様なアプローチに基づき、社会・文化・文明の基盤を成す知恵を生み出す“研究”機関です。同時に、それらの知恵を後進に継承する高等“教育”機関でもあるため、双方の使命を全うすることが基本です。さらに教育と研究はタマゴとニワトリの関係にあるため、双方のシナジー(相乗)効果を生み出すことも大切な仕事になります。

 

中央棟

工学研究科中央棟(青葉山キャンパス)

 

多様な知恵から構成される膨大な学問の中でも、未解明の事象を含む学問の原理(学理)は、さらに知識を探して蓄積する必要があり、方法の探求の意味も込めて学術と呼ばれます。そのため学術分野では、これからも新しい知見が生まれる可能性があります。未解明の部分が残されて知識に訂正・更新の可能性がある場合、学術的に枯れていないとも表現されます。学術のエッセンスは、言うまでもなく新しい知識の発見であり、新規性(オリジナリティ)の創出です。学術研究には、様々な研究対象を専門的に議論して理解を深めるための分類があり、それらは分野や領域と呼ばれます。それぞれの分野によって、目的・課題・手段・成果などの様相が大きく異なることも興味深いところです。分野が変われば世界も変わり、そこに住む研究者の考え方も異なるのが普通です。しかし、オリジナリティを尊重する姿勢だけは共通の価値観と言えます。

大学で扱う学術体系は、一般に自然科学を扱う理科系と、人文科学を扱う文科系に大別されます。理科系は、まだまだ未知の部分が多い自然の法則・原理を解明して社会や生活に役立てるのに対して、文科系は複雑で多様な人の精神性・思想・営み・歴史を解明するとともに、経済のみならず精神的にも豊かな社会のあり方とその可能性を探求します。そのため双方とも、人類の文明・文化の発展に欠かせません。

さらに理科系の中でも、理学の研究は森羅万象の根底に潜む真理を見いだすのに対して、工学は見いだされた自然の摂理を活用することにより、人類の文明・文化・社会、そして人の心までも豊かにする知識・知恵を生産する活動と言えます。すなわち理学は、新たな絶対的真理の“発見”を目指すのに対して、工学では身近な生活や社会(人々の繋がり)に役立つ知恵を“発明”することを目的とします。このように理学・工学のアプローチは、ともに自然科学の発展に欠かせず、人類の可能性を拡げる車の両輪です。自然の法則を役立てる手段は、特に技術と呼ばれ、その獲得が工学研究の中心課題となります。

 

大学研究における工学分野の位置づけ

 

工学系の研究では、科学的な探求アプローチ(思考・実験・計算などを伴う試行錯誤)を通して、新たな事象の特徴・機能を探って明らかにすることで、現実社会に活かす知恵を見いだします。大学での工学研究は、社会に役立ちそうな技術概念や基本技術を自由に創出する役割に担い、数多く提案された技術を基に、企業が製品やサービスとして実用化して、社会生活に役立ていきます。それらは、研究の社会還元もしくは社会実装と呼ばれます。

そのため研究室のミッションは、知の創出・体系化・継承の過程を繰り返すことにより、得られた知見を現在、そして将来の社会に役立てることです。たとえ、研究者個人の興味から始まった研究であっても、科学技術の可能性を追求することで、将来の社会に恩恵をもたらします。もし、それが新しいコンセプトを伴う提案であれば、さらに波及効果が大きくなり、意義深い仕事になります。

このように社会に役立つ技術を発展させることは、工学研究者に与えられた責務です。これまで人類は、その旺盛な探求心に基づき、高度な文明社会と繁栄を築いてきました。そのような知的好奇心を生物学的立場から眺めると、環境がどのように変化しても生き延びられるように、進化の過程で獲得した気質、いわば本能と言えるでしょう。私たちが大発見・大発明のニュースを耳にすると、自然と嬉しくなるのはそのためかも知れません。また、創作物・芸術などでも、奇抜さ(奇想天外)・意外性・驚きなどの進取性が望まれる理由は、同じ根っこにあるかも知れません。

上記のように技術の研究開発により、新たな情報や知恵を獲得する知識生産活動は、人類の可能性を切り開く典型的なアプローチと言えます。

 

本研究室が考える社会貢献