企業との連携シナジー

 

新技術・新サービスなどの価値を生み出して実社会に役立てる企業(特に製造業)において、基礎研究から始めて製品の開発・事業化・普及まで到るには、様々な障害・苦難を乗り越えなくてはなりません。一般に企業の研究開発・製造・販売(リニアモデル)における課題は、それぞれ魔の川(アイデアの検証・具体化)、死の谷(量産化・低コスト化)、ダーウィンの海(市場競争の克服)などと呼ばれます。研究開発に立ちはだかるこれらの障壁・ギャップを克服する上で、密接な産学連携の取り組みが役立ちます。

 

産学連携により、新たな価値の創出へ

 

大学の基礎研究(シーズ指向)と企業の開発研究(ニーズ指向)は、相補的な関係にあります。例えば、有望な新概念の技術が出現した場合でも、過度の期待感に応えられない幻滅期(ハイプ・サイクル)を乗り越え、真に役立つ用途を見つけて実用期に移行するには、技術の本質や限界を論理的に理解した上で、特徴を活用できる仕組みを考えるのが早道です。また新技術をベースに、製品の開発や差別化を図ったり、新たなビジネスモデルを構築したりする場合も、技術の基礎と可能性を正確に把握することが必要です。

その一方、大学側にとっても、企業の応用ニーズから新たな研究シーズの発想を得ることができ、ウイン・ウインの関係が成り立ちます。社会に影響を及ぼすイノベーションは、既存の異分野技術の組合せや融合により生まれると言われます。双方の基礎分野がしっかりしているほど、確かなインパクトになります。新たな発想で見いだされた技術を統合すると、さらに大きな破壊力になります。

研究者の自由な発想に基づく大学の基礎研究は、そのような趣旨で行われていることが多く、企業サイドからは予測不能なポテンシャルを有しています。これにより、本当の意味での相乗(シナジー)効果が期待できます。通常、企業で重視されるスピード感と、大学の基礎重視の考え方(重い!)は相容れないと思われがちですが、上記のように両者の歯車がかみ合うと突破力になり、強力な推進力と展開力が得られます。

 

化学裏

ケヤキ(青葉山キャンパス)

多方面の力を結集して、実り多い秋へ

 

近年、国内のエレクトロニクス関連企業の活動では、製造法や性能のコモディティ化により外国企業との競争の激しさが増す一方、製造拠点の海外移転や海外委託生産などにより、グローバル化が進んでいます。国際的に価値感が画一化されたグローバル社会の進展、データのみで製造が可能となるディジタルファブリケーションの普及などにより、日本の産業構造も大きく変化しています。一方、製造業を含む国内全産業において、サービス業の比率が金額ベースで大半を占めるようになっています。このような大きな転換期こそ、大胆でユニークな視点により全世界の研究分野を牽引する大学研究者の発想が、ビジネスモデルの再構築に役立つ可能性があります。進取性に富む大学研究は、企業の中長期的な技術・経営課題に対して、様々なソリューションを提供します。

 

シラカバ(青葉山キャンパス)

多方面の力を結集して、実り多い秋へ

 

また、企業では時間スケールの厳格化とリソースの選択集中が迫られる一方、情報ネットワークの拡大により社会全体が大きく変化しているため、先が読めない状況が続いています。そのため様々な業種・業態において、保険として多様性を確保して包含することが、重要視されつつあります(ダイバーシティとインクルージョン)。時代や社会の変化に応じて大きなリスクを事前に予測・回避するコンティンジェンシー的な対応です。大学では、学問の自由に基づき、教員の自由な発想と分野の拡がりが保障されます。大学の多彩な研究開発アプローチは、企業のダイバーシティ確保の仕組みとしても役立つと考えています。また、大学発の大胆の発想には、これまでの市場競争を覆すゲームチェンジャー的な技術も含まれます。

また、企業は事業規模が大きくなると、イノベーションのジレンマに陥ることが少なくありません。すなわち、利益に直結しやすい従来技術の改良に目が捉われて、新興の破壊的イノベーションの予兆を見逃しがちです。大学で生み出される専門性に基づく大胆かつ斬新な発想の研究は、それらを打開することにも役立ちます。

 

ハナイグチ

キンチャヤマイグチ(青葉山キャンパス)

表出する傘のサイズは地下の栄養で決まります