高校生・受験生のための研究紹介

電子工学コース

量子と光の世界に魅せられて
科学技術の新たな可能性を探る

進化する物理の基礎原理を
今までにない測定法で実証に導く

量子と光の世界に魅せられて科学技術の新たな可能性を探る

幼い頃から生き物や機械が大好きで、中学・高校では星や光に夢中・・・ そんな理科少年だった私が量子力学の世界と出会ったのは、ちょうど皆さんと同じ高校生の頃でした。当時の高校物理も、運動方程式に代表されるニュートン力学が基本。しかし、原子や分子、光子といったミクロな世界を司るのは量子力学であり、それまで叩き込まれた“物理現象はすべて理論(計算)で決定できる”という物理の常識が通じないことに衝撃を受けたものです。以来、私はミステリアスな量子力学と光の研究に取り組んできました。

今や現代工学に欠かせない学問となっている量子力学。その基礎原理として認められてきた「不確定性関係」は、例えば物質の位置と運動量などの2つの量を同時には決定できないというもので、あらゆる科学の礎となる測定技術に深く関わっています。測定は人が情報を得るために欠かせない手続きですから、どこまで精密な測定ができるか、言い換えれば、人がどこまで自然から知恵を得られるかという極めて根本的な問題に関係しているのです。

量子と光の世界に魅せられて科学技術の新たな可能性を探る 量子と光の世界に魅せられて科学技術の新たな可能性を探る

その不確定性に大きな誤解があるという新理論を唱えたのが、2003年当時東北大学教授であった小澤正直先生(現名古屋大学教授)でした。実は私も大学生の時、不確定性に正体不明の違和感を覚えていたのです。小澤先生とディスカッションを重ねるうちに当時を思い返し、その違和感の正体を突き止めようと新理論の実験的検証に向けた挑戦をスタート。それまで培ってきた知識と技術を生かし、ついに2013年、光の偏光を用いた測定法で成功させることができました。量子力学誕生から90年近く信じられてきた原理が破られ、より精密な測定の可能性が広がったことはもちろん、理論と実験的検証いずれも“東北大学発”ということは、とても意義のあることだと思っています。

今後の目標は、不確定性関係を、みなさんにも馴染み深い位置や運動量といった連続量に拡張して捉えること。そのためには量子力学を利用して超精密に測定する技術を開発する必要があります。この難題を解くことができれば、アインシュタインの予測から100年、誰ひとり成し遂げていない重力波検出にも貢献できるかもしれません。

研究はよくわからないからおもしろい。わからないことに挑戦することこそ研究の醍醐味。みなさんも大学で自分が夢中になれることを見つけ、とことん打ち込んでほしいと思います。

Profile

枝松 圭一 教授

枝松 圭一 教授
Keiichi Edamatsu

量子力学を応用して開発した弱測定法により、不確定性原理を破る「小澤の不等式」および「ブランシアードの不等式」の実験的検証に成功、世界的な注目を集める。

専門は、光の量子的効果(量子光学)、量子力学の原理を用いた情報通信(量子情報通信)、光と物質の相互作用(光物性)についての実験研究。
宮城県仙台第一高等学校卒業。1981年3月東北大学理学部物理学科卒業、1987年3月 東北大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。 東北大学工学部助手、カリフォルニア工科大学客員研究員、東北大学大学院工学研究科助教授、大阪大学大学院基礎工学研究科助教授などを経て、2003年1月から東北大学電気通信研究所教授。