副会長  大槻 幹雄

 日本経済は未曽有の不況にさらされ、政治・経済・教育はもとより、技術開 発のあり方も含め社会全体の新しい仕組みが模索されている。今日の経済危機 は五十五年体制の制度疲労であり、新たな二十一世紀に向けての新しい社会の 仕組み作りが求められて居ると言えよう。
 明治以来の日本の対応は、全ての分野に於いて、欧米諸国に「追いつけ、追 い越せ」であったが、今や、日本は世界の先頭に立って展開しなければならな い立場にある。このことは、これまでの「追いつけ、追い越せ」ではなく、技 術の分野で言うならば、先端の技術開発が求められていることであり、先端の システムの創出が求められているのである。日本はよく物作りは巧いと言われ ているが、満ち足りた時代にはどう作るかではなく、何を作るかである、何を 作ったら社会の役に立つかである。「新しい仕組みの物やシステム」を造り出 すと言う事は、先ず、世の中の状況を知ってなければならないし、新しいコン セプトも必要だし、勿論、その為の新技術の研究や開発も必要である。端的に 言えば、総合技術が求められると言う事である。
 例えば、経済的クライシスが起こった場合の日米の対応の違いに、第三次産 業革命での日本の敗因を見る事が出来よう。即ち、日本の場合は単なる経済循 環系の問題とかたづけ、効率化や自動化などに走るが、米国の場合はこのクラ イシスを新しいコンセプトを作り出す事によって乗り切って居る。従って、単 に、クライシスを乗り切るでは無く、同時に、次の時代に向けた新しい展開が 可能となるのである。
 新しいシーズとなる研究・開発は基本であるが、以上述べた様にそれだけで は世界の一流には成れない。今、社会が求めているのは何か、その為の新しい コンセプトはどんなものかを熟知して肌身で感じなければならない。最近、社 会人博士コースを新設したり、大学の技術を企業に移転する組織を創設する等 の動きがあるが、また、一方では、新しい研究に取り組む教授・助教授の先生 方の研究方向が社会の求めている方向に合っているのかも極めて大事な事と思 う。全く新しいシーズから今まで考えられなかったものが生み出される事は極 めて大事であるが、社会全体として求められて居る中でのブレークスルー技術 を生み出す事も大事であろう。ソフトウェアの研究等は全体的に不足して居る 様に思えるのもその一例であろう。この点から、八回を経過した「産官学フォー ラム」に期待する所が大きいのではなかろうか。もっと、生きたフォーラムに はらないものであろうか。そして、新しい波は東北から起こしたい物である。