特別講演 : 「新しいITベンチャを育てるために」
名誉教授(S15電気) 野口 正一 氏


  野口 正一 名誉教授

 
概要  : 

 通信業界バブルがはじけた。作り過ぎであり、Ciscoルータは定価の1/10で買えるようだ。

ベンチャーの要は社長である。ベンチャーは学生が簡単におこせるものではない。ファイナンスとマーケティングがとても非常に重要であり、学生では無理。  

 日本の優位性はあと何年もつだろうか。2次産業の優位性は中国に対して何年もつだろうか。Eコマースのリーダーは米国であり、この分野で日本は挽回できるのか。一体、日本は何を作ればよいのだろうか。

 IT戦略会議がいろいろやろうとしているが、ITインフラしか出来ないだろう。特に人材育成がうまくいかないだろう。世界中から優秀な人材が集められるかが勝負の分かれ目である。地方でやっても世界からは人は来ない。場所としては東京しか有り得ないだろう。

 半導体業界を見てみよう。1996年当時、日本と米国の市場シェアは互角だった(ただし、得意分野は違っていたが)。2000年、日本対米国は25対40で、あと10がアジアである。メモリとプロセッサを比べると、プロセッサが今後の要である。プロセッサ戦略が必要である。Playstation1/2は頑張っているが、その次、またその次と続々と日本から出てこないといけない。

 今後のキーテクノロジーの一つがIPv6である。いままではインターネットの標準化の場、IETFで日本はほとんど何もしていなかった。この頃は、日本の若手がIETFでかなり頑張っている。但し、その成果がビジネスにまで結びつくかは疑問である。IPv4では100億のアドレスが使えた。米国は全体の75%を占有しており、その他の国は25%である。米国はIPv6を焦る必要はなかった。この頃は、WinXPもIPv6に対応してきている。Ciscoのルータも対応するだろう。

 情報家電もキーとなる。PCは無くなる訳ではないが、今の形では居られない。 日本ではi-modeは成功を収めたが、世界標準を取れていない。FOMAのIMT-2000は世界標準になるだろうか。Cdma2000の方がアーキテクチャーとしては優れている。

 ナノテクノロジー(微細デバイス技術)はこれらの基盤技術となることは間違いない。

 中国の躍進が目立って来ている。各種の章の受賞が増えており、まずアイディア創生段階での躍進が大きい。この調子で行けば、中国には安い労働力もあり、日本の2次産業には優位性は無くなるだろう。日本が進むべき分野として残るのは、ハイテク分野であるが、この分野で日本が本当に頑張れるのだろうか。また、市場は大きいのだろうか。

 日本が進むべき分野の一つはeMarketplaceである。2000年のGDPは546兆円であったがその内訳は、製造業が146兆円、流通・ロジスティックが139兆円、サービスが133兆円、金融が33兆円、官が46兆円である。官関係を見てみよう。どの県に行ってもあるのが県庁であり、宮城県庁や福島県庁は1兆円企業ということであり、そのIT化はビジネスとして有望である。所謂、eSociety化であり、文書の電子化・標準化が大きな課題となる。標準化は世界標準をベースにする必要があり、XMLとJavaをベースとすべきである。

 EBusinessやeMarketplaceは先が不透明である。成功のカギはコスト、すなわちどれだけのボリュームを確保できるかである。通常、10万から100万が必要である。四条河原町のeShopでは、京都全体で連合してボリュームを確保しようとしている。年間の取り扱い量が、10億、100億から1000億に拡大する。ボリュームが違うと、eshopに不可欠なクレジットカードや宅配便の手数料のディスカウント率がまったく異なってくるのである。市場の立上り段階にボリュームを確保して優位に立ったのが、楽天であり、松井証券である。先手必勝である。しかし、先手必勝では第1段階を勝てるだけであり、何年持つかは分からない。

 Dellの成功は、徹底的カスタマイズをリーズナブルなコストで短期間に実現できたからであり、これで新しいビジネスモデルを作った。そのため、顧客・納品業者・アセンブリ・ロジスティック等をネットワークで結んだ。一般的な在庫日数は30日前後であるが、Dellは5日を実現した。これは生鮮食料品と同じである。

 ツタヤは、1400万人の会員も持つが、70%はモバイルインターネットユーザである。これを対象にクーポンを発行すると、発行直後から有効期限切れまでの間、モバイルインターネットユーザ会員の売上が急増する。ツタヤはモバイルインターネットを使ったきわめてハイ・レスポンスのマーケティング法を見つけた訳である。

 今までのeMarketplaceはMaster-slave型であった。すなわち、自動車メーカのような全体の盟主が存在して、その周りに各種の企業が連なるという形である。しかし、これからはMasterは存在しないcollaboration型が出現してくると思われる。現在、全米の余剰在庫の総量は1,250億ドル。これを削減できると大変なことである。これをやれるのはcollaboration型と思う。また、企業にとって非常に重要なTime-to-marketの短縮の実現も、インタネット上でのcollaboration型スキームでしかやれないと思う。

 eMarketplace以外ではC2Cには潜在的可能性がある。巨大なI-modeユーザ4000万人をベースにしたC2Cである。個対個のコミュニティをどうビジネスに繋げていくだろうか。

 Fortune500の企業を見てみると、単一の強力なコアを保持する企業が全体の60%を占めている。インタネット・ビジネスでも強力なコアを持つことが非常に重要である。

 次に、人材の育成について。個人ベースの話が基本となるが、その先で自治体、大学等は何をやるべきだろうか。

 従来から、産官学というのがあったが、これはよい方法だったのだろうか。私はちがうと思う。産官学の90%は失敗だったのではないだろうか。日本の学と産を分担を見よう。日本の学は基礎研究中心である。コンピュータ分野で言えばcomputer scienceである。基礎研究のビジネス応用を日本でやっているのは、メーカの研究所だけである。国立の研究機関もやっていない。これではビジネスには展開できない。米国を見てみよう。Stanford大学、UCB、CMU等いずれの大学もビジネス展開をきちんとやっている。加えて、各大学はそれぞれにコア分野を持っていてその分野では他を圧倒する個性を発揮している。日本でもこのように出来ないだろうか。このためには大学の先生にインセンティブが必要である。企業が大学の優秀な先生に2000万円の給与を払えるだろうか。優秀な先生は今では研究費には困っていない。必ずしもお金がすべてではないが、このようなインセンティブは必要である。しかし、これを実現するのは難しいと思う。

 電子デバイス分野の国際論文の出所を調査したことがある。電子デバイステクノロジはビジネスに近い研究である。米国では、企業と大学の比率が半々である。しかし、日本では企業に比べて大学が非常に少ない。大学の数でいくと11。日本の強い電子デバイス分野でもこんな状態である。

 なぜ、ベンチャーなのだろうか。ベンチャー企業の人数は精々10人から20人である。100万人の雇用をつくろうとすると、約10万社のベンチャーをおこす必要がある。東北では約1万、宮城県では2000くらいでしょう。どうやってつくるのでしょうか。

 米国では最近までITが急伸していた。冷戦が終結して国防予算が1/2から1/3になってトップエリートが国防分野に行かなくなった。行った先がシステムシンテグレーションの新分野、金融等である。金融工学等はとても発展した。当時、この分野の利益は全米の全業種の利益の約40%にも達していた。IBMではホワイトカラーが大量解雇された厳しい時代でしたが。

 ベンチャーにとって、商品のクライアント・顧客を探索・創出することが一番重要で、一番難しい問題である。現場や研究室にいては出来ない仕事である。目利きが必要な仕事である。学生には出来ない。マーケティング能力とファイナンシング能力をあわせ持った人が必要である。新しい2次産業、3次産業を探し出す/創出する能力が必要である。既にこのような能力を持った人のチャレンジがいま必要である。

 小売業で見てみよう。全体的にはマイナス成長の企業がほとんどである。プラスなのはJuscoである。Juscoは絶対的に強力なITを持っている。ヨドバシ電器、コジマ、ヤマダ電器もプラスである。かれらは新しい視点、新しい発想でビジネスをしている。マツモトキヨシもプラスである。マツモトキヨシに来る客が、薬といっしょに欲しがる日常品を並べて売って儲けている。ITとロジスティックを結合した新しいビジネスモデルを構築しているのである。

 新技術が新市場をつくることもある。アナログカメラからデジタルカメラへの移行を考えてみてください。従来は、カメラメーカ、フィルムメーカ、現像サービス業者、アルバム業者等があった。デジタルカメラでは、カメラメーカは従来からのアナログのメーカだけではなくなってしまった。フィルムはメモリに置換えられ、現像サービス業はプリンタメーカになっている。プリンタで頑張っているのが、エプソンであり、HPである。

 ナップスターを見てみよう。音楽ファイルの出現を捉えて、個人間の音楽ファイルの交換の仲介という新しいビジネスモデルを創出している。ただし、著作権問題で先は不透明であるが。

 ベンチャーの成功の条件は何でだろうか。一にマーケティング、二にマーケティング、三、四がなくて、五にテクノロジーである。金も問題だが、マーケティングが解決されていれば、金は工面できる。ビジネスモデルが重要である。クライアント・顧客に本当に利益がある商品か、利益が大きいかが重要である。

 ビジネスモデルを発想するには、いままでとは異なる新しい発想が必要である。Seven Elevenを見てみよう。同規模の店舗の場合、Seven Elevenの一日売上は70万で、他のコンビニは50万、一般店舗なら20万のようである。Seven Elevenは新しいファッション性のある新商品を1、2週間でどんどん回転させている。若者向けの鼻の脂取り紙というやつがあった。われわれとっては有っても無くともよい商品である。だが、若者に流行を作り出し、若者が買いたいと思うのである。エンタテイメント・ショッピングである。これで若者は日常のストレスを解消しているのである。

 役に立たないものとしては、ガングロ・ヤマンバ・厚底靴のビジネスもそうである。また、SonyのAIBOも役に立たないから売れたのである。役に立たない商品の有効性を嗅ぎ分ける能力が必要である。

 ベンチャーの目的のひとつには、IPOがあるが、いま米国ではIPOすると安いのでIPOしない。もうひとつはM&Aである。M&Aは、トップ企業になるためには必ず必要である。

 新ビジネスを始めるとしばらくして競合が発生する。強いベンチャならここは楽勝である。その後に、第2ステージに移行する。第1ステージの時に、第2ステージの戦略をキチンと組めているかが勝負の分かれ目である。Docomoは初めは44.9%のシェアがあったが、その後の競合で33%にまで低落した。そして、I-modeで84%のシェアに躍進した。当時の2000万人の携帯ユーザと2000万人のインターネットユーザを結びつけたら大ビジネスになると考えた人がいてI-modeができた。技術的にはDocomoにワイヤレスパケット通信技術があったことも影響しているが。I-modeはもうじき6000万人程度で頭打ちになるのは目に見えている。その次はFOMAである。だれが勝つのだろうか?国際化しないと勝てないでだろう。

 楽天も新しいビジネスモデルで第1ステージは成功した。だが、現在はシェアが低下中である。

 グルノーという京都の高級磁器のeshopがある。マイセン、ウェッジウッド等をデパート価格より40%低く販売している。Show-windowは全国にあるので、あとはこのお店を信用してくれれば注文がどんどん来まる。だが、だれでも真似ができるので、6ヶ月か1年程度しかもたないだろう。

 ベンチャ-に大切なのは、チャレンジ精神である。現状に満足しないチャレンジ精神である。だたし、第1ステージで大きく稼いで、後は悠々自適という選択もあるが。